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京都地方裁判所 平成4年(ワ)1362号 判決

原告

岩橋政寛

被告

宗教法人教王護国寺

右代表者代表役員

砂原秀遍

右訴訟代理人弁護士

安武敏夫

別城信太郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告と被告との間で、原告が被告の代表役員たる地位を有することを確認する。

第二事案の概要

一争いのない事実その他の基礎的事実

1  原告は、昭和四九年六月二八日、被告の代表役員に就任し、以来再任されてきた。なお、宗教法人王護国寺規則(〈書証番号略〉以下「東寺規則」という。)九条二項によれば、代表役員の任期は五年であり、原告が最後に再任されたのは昭和六二年三月八日であった。

2  平成四年一月一七日、被告の責任役員である森泰長、砂原秀遍、渥美義久及び砂原秀輝の四名は、先に互選により選定していた仮代表役員森泰長の召集通知に基づいて責任役員会を開催し、仮責任役員に三浦俊良を選任し、右五名の一致で原告を代表役員から解任する旨の決議をし、さらに、三浦俊良を除く四名の一致で砂原秀遍を代表役員代務者に選任する旨の決議をし、右同日、京都地方法務局にその旨の変更登記の申請をして登記が経由された。

3  同年三月八日、森泰長、砂原秀遍、渥美義久、砂原秀輝及び生姜塚慶悟の五名が責任役員会を開催し、砂原秀遍を代表役員に選任し、翌九日、同法務局にその旨の変更登記を申請して登記が経由された。

二当事者の主張

1  原告

右の原告の代表役員からの解任、砂原秀遍の代表役員代務者及び代表役員への各選任は、以下の理由によりいずれも無効である。

(一) 平成四年一月一七日付原告の代表役員解任及び砂原秀遍の代表役員代務者選任決議は、まずその手続についてみるのに、責任役員会の開催・招集権限は代表役員である原告だけに帰属しており、仮代表役員を名乗る森泰長は召集権限を有していなかったから、その招集に基づく責任役員会は不適法であるし、右責任役員会は、同日に原告により招集されて開催された本来の責任役員会を一方的に流会させた直後に、原告及び原告により責任役員に任命されていた森田隆弘を除外して私的に開催した会合に過ぎないから、そこでなされた各決議は、招集権限、出席者いずれの点からしても無効な決議である。

次に代表役員解任の議決権限については、東寺規則にはこれに関する規定はないから、右解任は、責任役員のほか、寺院総代、信徒総代、内務内局等の関係者が集合し、当該代表役員にも弁明の機会を与え、寺院全体の意思として決定すべき事項であって、責任役員の合議のみによって代表役員を解任することはできないものというべきである。

仮に責任役員会に代表役員の解任権限があったものとしても、代表役員は、被告を代表し、被告法人の機関として最も重要な地位を占めるものであり、その選任の基盤が失われる程の重大な非行がない限りみだりに解任することはできないものと解すべきところ、被告主張の解任理由は、全く右理由たり得べきものではない。原告は、森泰長、砂原秀輝に被告の寺務運営や会計を任せていたところ、生姜塚慶悟の相場での損失と被告による肩代わり弁済という問題が発覚したので、被告の会計の不明朗を正し寺務運営を刷新するため右三名の責任役員の解職を求めていたが、右三名は、砂原秀遍、渥美義久を味方に引き入れてこれを妨害しようと原告の代表役員解任を画策して責任役員会開催を求めていたため、原告がこれに応じなかったに過ぎず、責任役員会不開催によって被告法人の運営に支障を来してもいない。

(二) 平成四年三月八日付砂原秀遍の代表役員選任決議は、(一)のとおり、先になされた同人の代表役員代務者としての選任が無効で、召集権限のない同人により召集され、原告及び森田隆弘には通知すらせず両名を除外してなされた私的な会合で、責任役員会として不存在ないし不適法であるから、そこでなされた決議であって不存在ないし無効である。なお、原告は、右決議に先立つ平成四年一月一七日、森泰長、砂原秀遍、渥美義久及び砂原秀輝の四名を責任役員から解任していたから、右選任決議は責任役員でない者らによりなされた点からも不存在ないし無効である。

(三) 任期満了の際の後任の代表役員及び責任役員の選任手続についてみても、東寺規則によれば、代表役員及び責任役員は辞任または任期満了後であっても後任者が就任するまでなおその職務を行い(九条五項)、他方、責任役員の任期は代表役員の任期に従う(同条三項)と規定されており、前任の代表役員がまず後任の責任役員を選定し、新たに選任された責任役員が後任の代表役員を選任すべきであって、前任の責任役員が後任の代表役員を先に選任することは東寺規則に反する。

(四) 以上のとおり、被告では適法有効な選任決議を経た代表役員は原告以外に存在しないから、原告は、右東寺規則の定めにより、任期満了後においてもなお被告の代表役員としての地位を有する。

2  被告

(一) 平成四年一月一七日の原告の代表役員解任等の決議に関し、責任役員の議決方法については、株式会社における取締役会などとは異なり、宗教法人法上責任役員会の設置は各法人規則に任され、東寺規則上は責任役員会なる会議体の機関及びそれに関する定めは存在しないから、被告の責任役員会には召集行為は必要ではなく、召集権限を問題とする余地はない。仮に召集権限が代表役員にあるとしても、右代表役員解任のための責任役員会の召集は仮代表役員において行えるものと解すべきであるから、仮代表役員森泰長による適法な召集があったものとして召集手続は有効である。そして、原告の解任決議をした責任役員会の召集通知は事前に原告に手交されている。なお、原告による森田隆弘の責任役員任命は寺院総代会の同意なくしてなされた無効なものであるから(寺院総代の任期は平成三年三月八日で既に満了していた。)、同人を責任役員から除外することは当然である。

次に、代表役員は、選任権者である責任役員の合議で解任することができ、その理由については、そもそも被告法人と代表役員の法律関係は、委任ないし準委任契約であるから、民法六五一条一項により、解任には理由を必要としないものというべきである。仮に理由が必要であるとしても、主として以下のように、原告には被告との信頼関係を損なう債務不履行があったから、正当な理由による解任であって、適法かつ有効である。すなわち、被告では、平成元年以来、被告及び被告が一〇〇パーセント出資する有限会社東寺洛南会舘の運営や人事にまで大きく介入して寺務を混乱させてきた株式会社文化時報社の尾崎公昭、尾崎京夫妻と絶縁するとの基本方針を採り、原告を含む責任役員会の一致で、平成二年四月二五日には尾崎らと意を通じていた責任役員森宣雅を解任し、同年五月九日には信徒総代であった尾崎夫妻の信徒総代委嘱解除の措置を採っていたにもかかわらず、原告は、平成三年三月ころからこれに反する行動に出るようになり、文化時報社と繋がりのある第三者を介入させて、森泰長、砂原秀輝らに対する責任役員辞任を画策してその強要を行ったうえ、他の責任役員の要求を無視して半年以上にわたって被告の責任役員会の召集を怠り、被告の事務処理を混乱させるなどした。

(二) 平成四年三月八日の責任役員会での決議については、召集権限を問題とする余地のないこと、原告は解任されており、森田隆弘を排除したのが正当であることは前記のとおりであるから、その適法性、有効性には何ら問題はない。仮に原告に責任役員会出席資格があったものとしても、原告は他の責任役員から不信任を突き付けられていた状況にあり、原告が出席したとしても、砂原秀遍を新たな代表役員に選任したという決議の結果には影響がなかったことが明らかであり、かかる特段の事情が存在する場合は決議は有効であると解すべきである。

また、原告は、平成四年一月一七日に、森泰長、砂原秀遍、渥美義久及び砂原秀輝の四名を責任役員から解任したと主張するが、東寺規則八条二項の反対解釈として、代表役員が責任役員を解任するには寺院総代会の同意が必要であるが、これがないので右解任は無効である。

(三) 任期満了の際の後任代表役員及び責任役員の選任方法に関する東寺規則九条五項、三項の定めの解釈としては、まず前任の責任役員が後任の代表役員を選任し、新たに選任された代表役員が後任の責任役員を選任すべきである。

そして、原告は、昭和六二年三月八日に代表役員に再任されているが、仮に平成四年一月一七日にした原告解任の決議が無効であるとしても、東寺規則により、同年三月八日の経過によって原告の五年の任期は満了し、同日開催の責任役員会において砂原秀遍が代表役員に選任されて翌九日その旨の変更登記が経由されており、原告の任期満了後に新たな代表役員の選任があった以上原告は代表役員としての地位を失っているから、そもそも原告の本訴請求は確認の利益を欠くものとして却下を免れず、然らずとするも棄却を免れない。

第三判断

一被告の代表役員の任期は五年であり、原告は、昭和六二年三月八日、被告の代表役員に再任されており、原告の代表役員としての任期は平成四年三月八日の経過によって満了すべきところ、右同日、責任役員である森泰長、砂原秀遍、渥美義久、砂原秀輝及び生姜塚慶悟の五名が責任役員会を開催して砂原秀遍を代表役員に選任する旨の決議をし、翌九日その旨の登記を経由しているのであるから、まずその選任決議の有効性から検討する。

二右責任役員会については、召集手続が採られた形跡はないうえ、少なくとも、原告が先に責任役員に任命したと主張する森田隆弘及び原告には開催が通知されず、出席の機会を与えないまま開催されたものであるところ、責任役員の合議の方法については、宗教法人法を受けた東寺規則は、被告法人の事務は責任役員の定数(六条二項により七人)の過半数で決し、その議決権は各々平等とし(一一条)、代表役員は真言宗の教師の中から責任役員が合議の上選任する(八条一項)と規定するだけで、同法及び同規則中には責任役員会という会議体の機関及びその召集を含めた責任役員会に関する定めは何もなく、責任役員会の存在が当然に予定されているものとはいい難いから、慣例上責任役員の合議に対して与えられた名称や合議運営上の妥当性や望ましさの点はともかくとして、法的には、株式会社の取締役会などとは異なり、責任役員が右合議をする際に代表役員その他の召集権者による召集行為は必要ではないものと解すべきである。しかしながら、一部の責任役員の議決権を無視することは許されないから、右合議に際しては責任役員の全員に対して意見を述べ合議に加わる機会が保障されねばならず、一部の責任役員に右機会を与えることなく行われた決議には瑕疵があるというべきであるが、その場合においても、その者を加えて合議をしても合議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情があるときは、その決議は有効であると解すべきである。

三そこで、右特段の事情の存否につき検討するのに、証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨を総合すると、平成四年三月八日の合議に至った経過につき以下の事実が認められる。すなわち、平成三年三月八日付の新聞紙上に、被告らが共同経営する洛南高等学校校長で被告の責任役員である生姜塚慶悟が、昭和六〇年春に大豆相場に手を出して五〇〇〇万円の借金を抱え、昭和六二年末に同人の依頼で被告が右金額を肩代わりして返済したが、生姜塚は被告に対する返済と同校出入りの業者や父母からの寄付金等との相殺を図った旨の記事が登載されて問題となり、生姜塚は平成三年五月責任役員の辞任願を被告に提出し、原告はこれを最善の方法と判断していたが、森泰長、砂原秀遍、渥美義久及び砂原秀輝の責任役員四名はこれに反対し、生姜塚も辞任願を後に撤回した。これらを契機として、原告とその余の責任役員らとは対立することとなり、原告は、生姜塚の借金の肩代わり弁済について、寺務全般を担当していた森泰長や会計を担当していた砂原秀輝らが加担し、代表役員である原告の知らない間に、昭和六二年一一月に被告から生姜塚に二五〇〇万円を貸し付け、昭和六三年一月には被告が京都銀行から二五〇〇万円を借り入れたうえ、同年二月、右金員を東海普済寺の世界戦没者慰霊仏舎利塔建立計画資金として志納する旨の架空の臨時責任役員会議事録を作成して生姜塚の肩代わり資金に流用するなど、恣意的運営や不正公金支出を行ったとして非難し、これに対し、森泰長ほかの責任役員らは、原告は右一連の措置を了解し賛同していたのに、生姜塚問題が表沙汰になったことに事寄せて、第三者を介入させ、生姜塚のほか森泰長や渥美義久、砂原秀輝ら責任役員の辞任強要を画策したなどと批判し合うに至り、同年七月末、森泰長ら責任役員五名は原告に対し、生姜塚の辞任申出の取扱いや責任役員辞任強要に対する処置等を議題とする責任役員会開催を要求したが、原告は、責任役員会では右議題が適正に論議され妥当な解決が図られる見込がないとしてその開催を拒否し、被告住職や責任役員のほか事務責任者等の出席も求めた全体会議で意見を取り交わして問題解明を図るべく被告住職に意見具申中である旨を回答した。同年一〇月ころからは、双方とも代理人弁護士を通じての交渉となって一段と対立は深まり、同月二一日に森泰長、砂原秀遍、渥美義久及び砂原秀輝が代理人弁護士とともに原告に会い、代表役員の辞任を申し入れたのに対して、原告は代理人弁護士を通じて生姜塚問題に関する森泰長らの責任を問う回答書を送付し、この間、当初原告寄りの立場をとって同年七月初めには森泰長を東寺真言宗特選議員から免職する通知書を発するなどした被告住職と原告との関係が悪化し、同年一一月末、被告住職は、森泰長ら五名の責任役員に対し、原告の代表役員解任を含めて正常化の方策を検討するため責任役員が懇談会を開くことを強く要請する旨の書面を出す中、同年一二月にかけての双方の代理人弁護士を通じた交渉で、責任役員五名からは原告に責任役員会の開催を重ねて求める文書が、原告からは責任役員らの責任を問う文書が何度も交換され、一二月二五日になって、平成四年一月一七日に責任役員会を開催する旨双方が合意した。この責任役員会に先立ち、生姜塚を除く森泰長ら責任役員四名は、前記の被告住職の要請に基づいて一月一一日に責任役員懇談会なる会合を持ち、原告が次の責任役員会でその責任問題に関して合理的な説明をしないときは原告を代表役員から解任することを申し合わせ、それに備えて東寺規則一六条一項に基づき森泰長を仮代表役員に選定したのに対し、原告は、責任役員会前日の同月一六日、同人側に立つ森田隆弘を責任役員に任命した。同月一七日午前一〇時ころから予定の責任役員会が開催されたが、その席上、原告は、森田隆弘及び書記役として原告の息子である岩橋寛行を同席させることの承諾を執拗に求め、森泰長、砂原秀遍、渥美義久、砂原秀輝及び生姜塚慶悟の責任役員五名は厳しく抵抗して森田隆弘や岩橋寛行の退出を求めて譲らず、この点の議論が続いて紛糾し、実質的な議事に入らないまま四〇分程で原告が閉会を宣言して流会となり、生姜塚を除く森泰長ら責任役員四名は、責任役員会を開催する旨の仮代表役員森泰長名義の通知書を原告に直ちに交付した上で、同日午前一〇時四八分ころから責任役員会を開催し、まず原告の仮責任役員として責任役員らが選任した三浦俊良を加えて原告の代表役員解任を、次に右四名で砂原秀遍の代表役員代務者選任をそれぞれ全員一致で決議し、原告に対する代表役員解任通知書を直ちに原告宅に持参交付したが、原告はこれを不服として、同日、森泰長、砂原秀遍、渥美義久及び砂原秀輝を責任役員から解任したとしてその通知書を各人宛に持参交付し、同月一九日には右責任役員四名の代理人弁護士から、同月二一日には原告代理人弁護士から、それぞれに対して被告事務所等からの退去通知書が出され、同月二三日には原告は森泰長、砂原秀輝及び生姜塚慶悟の三名を背任罪で告訴し、同月二九日、京都地方裁判所に代表役員代務者砂原秀遍の職務執行停止を求める仮処分の申立てをした。同年三月八日、原告と森田隆弘を除く五名の責任役員は原告らに会合の通知をせずに責任役員会を開催して、全員の一致で代表役員に砂原秀遍を選任した。

右に認定の事実によれば、原告らと森泰長ら五名の責任役員との間では、双方の辞職を強く求めるなどして厳しく対立してきたものであり、原告や森田隆弘の他の責任役員らに対する影響力や予想される意見、決議内容などに照らすと、仮に平成四年三月八日の代表役員選任の合議に原告及び森田隆弘が加わり意見を述べ議決権を行使する機会が与えられたとしても、実際になされた砂原秀遍の代表役員選任の結論を動かすには至らなかったのは明らかであると認められる。したがって、本件では、右決議は、その瑕疵にもかかわらず有効とする特段の事情があるものというべきである。

四なお、原告は、平成四年三月八日に決議を行った責任役員中四名は既に原告が解任し、議決権はないから決議は不存在ないし無効であると主張するが、宗教法人法及び東寺規則は責任役員の解任について規定を設けていないから、解任の理由、手続及び方法は解釈に任されているものであるところ、解任理由の点はともかくとして、その手続及び方法については、特段の事情がない限り、選任の場合に従うのが権衡上相当であり、本件では右特段の事情は見当たらず、東寺規則では、責任役員は代表役員が選定し、寺院総代会の同意を得て任命することとされているから(八条二項)、責任役員の解任も、寺院総代会の同意を得て代表役員が行うべきものと解されるが、本件において右解任の当時に右同意を得たことについて何ら主張立証はなく(なお、そもそも被告の寺院総代は、昭和六二年三月八日の選任(〈書証番号略〉)を最後に再任ないし新たに選任された形跡はなく、その任期は四年で(東寺規則二一条一項)、任期終了後も職務を継続する旨の代表役員や責任役員に関する九条五項のような規定もないから、平成三年三月八日の経過をもって任期を満了していたまま欠員となっている。この点から見ると、原告がした森田隆弘の責任役員任命も、有効な同意があったものとはいい難いことになる。)、森泰長らの責任役員解任を理由とする原告の主張は理由がない。

五さらに、原告は、任期満了の際の後任の代表役員及び責任役員の選任順序につき、東寺規則の趣旨からすれば、まず前任の代表役員が後任の責任役員を選定してから、新たに選任された責任役員の合議により後任の代表役員を選任すべきであると主張するが、右規則には右順序に関する明確な規定はなく、代表役員、責任役員及び寺院総代の三者の選任に関する規定を見ると、被告法人には七人の責任役員を置き、そのうちの一人を代表役員とし(六条二項)、代表役員は真言宗の教師の中から責任役員が合議のうえ選任し(八条一項)、責任役員は、代表役員が真言宗の教師のうちから選定し、寺院総代会の同意を得て任命するとされ(同条二項)、寺院総代会は、寺院総代七人をもって組織し(一九条二項)、寺院総代は、被告関係寺院代表役員の中から被告代表役員が責任役員に諮り委嘱することとされており(二〇条)、右三者間の選任手続は循環しており、代表役員が被告法人を代表してその事務を総理する(一〇条二項)重要な地位を占めるからといって、直ちに代表役員には責任役員に優先する地位が与えられているものとはいい難い。したがって、前任の責任役員が先に後任の代表役員を選任することも東寺規則上否定されていないものと解されるから、平成四年三月八日の代表役員選任手続は東寺規則に反するものではなく適法であるというべきである。

六以上のとおりであって、原告の代表役員の任期は既に満了して後任の代表役員が適法有効に選任され、その旨の登記が経由されており、原告が被告代表役員の地位を有する余地はないものというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は失当である。

なお、被告は、本案前の答弁として、右のとおり代表役員の地位を有する余地のない原告には本件訴えを提起する利益がないとして訴えの却下を求めているが、原告が、責任役員らの代表役員解任決議の無効等を求めるなど、その後の決議の存在によって確認の実益が失われる訴えであれば格別、本件では代表役員の地位の確認を求めているのであるから、その地位を失った原告の請求は、理由がないものとして棄却すべきである。

(裁判官大野勝則)

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